緊迫化するパレスチナ情勢

アメリカが、大使館をテルアビブから、エルサレムへと移転したことへの抗議行動が広がり、パレスチナ自治区ガザでは50人以上の死傷者が出る事態となっている。

f:id:climbershigh:20180515071313j:plain
https://edition.cnn.com/2018/05/14/middleeast/gaza-protests-intl/index.html

 全ての当事者は自制を

情勢が急速に悪化している中において、全ての当事者は行動を自制して、沈静化に努めてほしい。

 

もちろん一般論として、イスラエルの治安部隊は、国境、秩序を守るために必要な措置を取る権利がある。ただ、犠牲者の数、またその中に、14歳の子供が含まれていることを考えると、実弾発射は特に慎重に、かつ国際社会の批判にも真摯に耳を傾けてもらいたい。

 

ただし、このような混乱を生み出した最大の原因は、唐突なアメリカによるエルサレムへの大使館移転である。

 大使館移転をめぐって

パレスチナ問題の背景は、とても一度に書ききれるほどではないので、またの機会として、ともかく、パレスチナ和平の最大の論点は、聖地エルサレムの地位についてであった。

f:id:climbershigh:20180515072030j:plain

 

その点についは、これまでの和平合意において、

エルサレムの地位はイスラエルパレスチナの和平交渉で決める」

ということになっていた。

 

それゆえ、これまで、アメリカを含めて各国は、イスラエルが首都としているエルサレムに大使館を置いてこなかった。それだけに、突如としてトランプ政権が実施を表明した今回の移転が、この混乱を引き起こした。

 今後は

これにより、パレスチナ和平交渉は困難になるのみならず、アメリカと近い関係にある、ヨルダン、サウジアラビア、などの中東各国もアメリカの中東政策に厳しい姿勢を向けることになるだろう。

 

そうなれば、中東情勢全体が不安定化し、ことはパレスチナのみならず、世界全体に影響を及ぼす。

 

それにしても…私がパレスチナ (西岸) を訪れたのは、もう3年前だけど出口の見えないどころか、悪化していく現状は、見ていて本当に苦しい。

 

これ以上、事態が悪化しないよう推移を見守りたい。

原稿はここで途絶しているーマルクス生誕から200周年ー

今年の5月5日は、マルクス生誕から200周年ということで、ヨーロッパ各地で様々なイベントが行われている。

 

f:id:climbershigh:20180506223821j:plain

Karl Marx, Capital and the British Library - The British Library

カール・マルクスと『資本論

カール・マルクス、その名を知らない人はいない。

そして、その著書である『資本論』もまた同様であろう。

 

が、これだけ知られつつも、多くの人に最後まで読まれることがない本とも言われる。

全3巻98章の大作であるが、実際のところ、序盤の商品、価値形態のところがなんともややこしく、ここでつまづくと先へ進めない。

f:id:climbershigh:20180506224024p:plain

マルクスとイギリス

ドイツ (当時プロイセン領) に生まれたマルクスは、「危険分子」として、各国政府に追われ、各地を転々とし、最後に行きついたのが、イギリス、ロンドン。

 

様々な文献が集まる大英図書館に籠って、研究に没頭する。

 

朝から図書館に行き、閉館する夜8時まで、ノートをとりつつ文献を読み込み、思索に耽る。そして家に帰ると、そのノートを基に、朝まで勉強を続ける

 

という具合で、ほとんど休まずに仕事を進めた。

 

マルクスの最期

そんな生活のためか、原稿の執筆途中で、彼は倒れて帰らぬ人となった。

部屋に散らかった原稿を、家族とエンゲルスがかき集めて出版されたのが、『資本論』である。

 

最後のページに記されたのは、「原稿はここで途絶している」

 

私はマルクス主義者ではないし、思想的に共鳴する部分はない。しかし、研究者としての姿勢や、特に大英図書館でのエピソードは気に入っている。

 

www.bl.uk

 

大英図書館には、彼に関する展示があり、さらに彼の墓はロンドンの北部のハイゲート墓地にある。興味のある方は、これを機会にマルクス巡りをするのもいいだろう。

 

f:id:climbershigh:20180506224500j:plain

The Atlantic

絶対に負けられない戦いがそこにはある!?

3月4日に、イングランド南部、ソールズベリーで発生した元ロシアスパイのセルゲイ・スクリパリ親子が、意識不明の重体となった件について。

 

ソールズベリーでのテロ事件

 イギリスは早い段階から、2人から極めて毒性の高い神経剤が検出され、ロシアによる神経剤、ノビチョーク(Novichok)の使用があったとして、強く非難した。

 

f:id:climbershigh:20180407222616j:plain

http://abcnews.go.com/International/russia-blame-spys-poisoning-foreign-minister/story?id=53703756

 

ロシア側はその関与を全面的に否定して、他国を巻き込んでの外交戦となっている。

 

その概要については、鶴岡氏の記事が最もよく整理されている。

www.huffingtonpost.jp

 

 国連での戦い、そしてホームズ!?

戦いの舞台は、国連に移され、イギリスとロシアの国連代表による激しいやりとりも。

 

ただ、その中身はウィットに富んでいる。

 

事件の調査団に、ロシア人科学者を入れろとの主張に、イギリス大使は、それは、

 

スコットランドヤード (ロンドン警視庁) に、モリアティー教授を招き入れるようなものだ!」

“Allowing Russian scientists into an investigation where they are the most likely perpetrators of the crime in Salisbury would be like Scotland Yard inviting in Professor Moriarty,” Pierce told reporters earlier on Thursday, citing a character from “Sherlock Holmes.” 

 

f:id:climbershigh:20180407223253j:plain

https://nerdist.com/100-years-of-sherlock-holmes-on-film/

 

思わぬ形で、巻き込まれてしまった、シャーロック。

 

それに、反論して、ロシア大使が、小説「不思議の国のアリス」を掲げて、イギリスの不当性を訴えるなど、激しい戦いながら、少し微笑ましくあるような…。

 

 

もちろん、当事者は真剣。

 

 

とりわけ、イギリスにとっては、単なるテロ事件ではなく、自国内での化学兵器による武力行使である。それゆえ、今回の外交戦には国家の命運がかかる。

 

絶対に負けられない、戦いであろう。

 

 

オックスフォード周遊記

普段はイングランド北部で生活しているが、仕事の関係で訪れるのがここオックスフォード。ちょっと見どころを紹介。

f:id:climbershigh:20180303080404j:plain

オックスフォードといえば、このラドクリフカメラだろう。

オックスフォード大学の図書館の一部で、いつでもカメラを持った観光客が集まる名所。

 

ぜひ訪れてほしいのは、中心部にあるアシュモレアン博物館 

f:id:climbershigh:20180303080806j:plain

https://www.ashmolean.org/plan-your-visit

 

1863年に開館した歴史ある博物館で、建物が美しいだけでなく、古代ローマギリシャの彫刻や、 ラファエロ前派印象派の絵画などもあり、大英博物館にも引けをとらないコレクション。

 

さらに併設されたカフェは、ケーキがおいしいので休憩するのもおすすめ。

f:id:climbershigh:20180303081449j:plain

私も次の約束まで時間があるときは、ここで過ごすことが多いです。Wi-Fi完備で机も広く、まったりできます。

 

で、ぜひ特に必須の場所は、「イギリスで一番おいしい」と評判の日本料理店 Edamame。市内中心部から少し歩いて、オックスフォードの中央図書館を抜けた小さな通りの一角にある。

f:id:climbershigh:20180303082054j:plain

メニューは、カツカレーから、定食、ラーメンなど一通りあって、値段も 8~10£と、イギリスの日本料理店とすれば良心的な設定と言える。

 

f:id:climbershigh:20180303082024j:plain

こちらカツカレー、カレーも、カツも、ごはんも本当においしかったです。

ただ、店が小さいこともあって、お昼時はいつも混んでいるので注意が必要。それと営業時間も日々変わるので、行かれる方はHPをチェックしてください。

 

オックスフォードは、コンパクトな街ながら見どころが多いです。

何より、オックスフォード大学は、現在首相を務めるメイ首相、前首相のキャメロン、外務大臣のボリスジョンソン、財務大臣ハモンド、元首相のブレア、そして、マーガレット・サッチャーなどなど、

 

政治に限らずイギリスの中枢を担う人材を山ほど出している。

まさに、イギリスの基盤を作っている大学街ともいえる。

f:id:climbershigh:20180303082834j:plain

オックスフォードの教育や、イギリスにおける位置づけ等については、またの機会に。

ロンドンから電車で1時間。日帰りも可能なので、イギリス観光の折にはぜひコースに入れてはどうでしょう。

 

ピケットラインを越えていけ!?

イギリス全土を揺るがし、世界的にもニュースになりつつある大学でのストライキ、いよいよ2週目に突入、その現状について。

目次

ストライキが2週目に突入

さらに規模が拡大し、各地で大きな影響が出ている。ストライキ開始時の様子はこちら。

climbershigh.hatenablog.co

 

ストライキが開始された、22日、23日は、教員のみならず、学生も参加して、大きな勢いを持っていた。

 

f:id:climbershigh:20180302071252j:plain

https://thetab.com/uk/cambridge/2018/02/22/why-i-will-be-crossing-the-picket-line-10761

その一方で、一部の大学では、左派系の学生団体などが、授業や、施設利用の妨害行為など行き過ぎた行動に出た事例も報告された。

 

またあちこちの大学では、労働党の議員がストライキを激励し、それを喜んでtwitterにあげていたりする場面も…。うーん……。

f:id:climbershigh:20180227004703j:plain

https://twitter.com/ChiOnwurah/status/968082632335659008


組合側 (UCU) は、ストライキの結束を訴えるものの、次第に学生側や、教員側からも不平や不満は出始めている。

 

学生側から高まる反発も

さらに、学生側からは『授業が休講になるなら、授業料を返してほしい!』

 

という訴えもでている。それも当然といえば、当然だろう。

そして、2週目に入って、少しずつ、授業や研究会を再開する人たちも増えてきた。

 

このことをこちらでは、 cross picket line と表現する。

 

ピケットラインを越えるとは?

ピケットラインとは、大学や教室の前に、スト参加者が並んで、ストライキ中に人の出入りや、スト破りを防止すること。

 

そして、非組合員や、組合員でもストに同意しないものが、大学で活動をすることを、cross picket line (ピケットラインを越える) という。

私の School でも、cross picket lineを通じて、少しずつ「大学の日常」を取り戻そうという動きがでてきた。

 

自分たちの生活のためにストライキをすることは、働くものの権利である。一方で、学生のために授業をしたい、研究を進めたい、と考えるものには、それを行う権利があり、決して妨害されるべきではない。

f:id:climbershigh:20180302072240j:plain(大学のあちこちに貼られたポスター)

 

27日から、第三者の仲介によって、組合側と大学側の交渉が行われている。

そこで折り合わなければ、来週以降もストライキによる混乱が続くことになる。

果たしてすんなりと収まるだろうか。

大雪にも負けず、EUにも負けず、労働党にも負けず!?

イギリスが大荒れの天気。特に北部は大雪で、交通機関にも大きな影響が。

目次

 

f:id:climbershigh:20180301002158j:plain

UK weather latest - snow storm sparks travel chaos on the roads - here's the worst-affected

 

EU離脱協定書

さて、そんななかで、EU離脱をめぐって大きな動きが。

 

第1ラウンドの交渉が終わって、第2ラウンドに移ったまでは良かったが、メイ政権の不安定さによって交渉がとまっていた。

 

第1ラウンドの概要についてはこちらを。

climbershigh.hatenablog.com

 

今日になって、しびれを切らしたEU側がついに、EU離脱協定書を発表

『これに従わないなら、交渉は進めない!!』

 

と言わんばかりの強い姿勢を示した。とりわけ懸案となっていた、北アイルランドアイルランドの国境問題については、北アイルランドが事実上、EUの関税同盟に残ることを示唆するものであり、イギリス政府には受け入れがたいものであった。

 

メイ首相の反応

今回の協定書を受けて、メイ首相は、「受け入れません!!」ときっぱり 拒絶した。

また、連立を北アイルランドDUPも同様にEUの姿勢を強く批判。

 

でも、これだと誰もが恐れる、No-Deal Brexit、つまりEUからの大混乱の中での離脱の可能性が…。

 

アイルランドを取り巻く問題については、こちら。

climbershigh.hatenablog.com

 

労働党の動きは

ここにきて、注目を集めるのが最大野党、労働党の動き。

これまで、コービン党首は曖昧な姿勢を示していたが、

 

先日、EUの関税同盟への残留を認める方針を示す。

そのうえで、保守党の中の、親EU派にも協調を呼びかけた。

 

メイ首相のリーダーシップが疑われている中で、さらに保守党内の亀裂は深まっている。そんななか、労働党の介入は思わぬ影響を与えるかもしれない。

 

保守党内の、強硬派と穏健派の対立は収拾がつかなくなり始めている。

 

大雪にも負けず、EUにも負けず、労働党にも負けず…といけるだろうか?

 

 

 

長いトンネルを抜けると「ストライキ」だった!?

ここ数日、出張で離れていて、戻ってみると大学が全面ストライキに突入していた。

目次

 

ストライキの経緯

ストライキの背景については、

climbershigh.hatenablog.com

 

そして、22日から実際にストライキが実施された。

イギリス全土でおよそ、64の大学、そして4万人のスタッフが参加し、授業に大きな影響が出ている。

 

f:id:climbershigh:20180223230756j:plain

Newcastle and Durham university strikes begin as bosses face up to possible compensation fight - Chronicle Live

 

ロンドン、マンチェスター、オックスフォードなど各大学のキャンパスあちらこちらで、ストライキに関わる運動も行われている。

 

ストライキの影響

 

私のいる Law school でも、多くの授業が休講となり、また各種イベントや式典も軒並みキャンセルされている。

あるストライキ参加の先生方にメールを送ったところ、このような類の自動返信が届くことも (一部編集)

 

>> I am currently on strike. This industrial action has been called by the University and College Union (UCU) as the Universities UK wish to change the terms of my pension scheme. …I would like to reassure you that I do not want to go on strike, but at this stage I believe I have no other option. 

 

現在、ストライキで返信できません、ストライキ以外に方法がないです…。というもの。

 

私は今回のストライキについて、同情できるところは多々あるものの、賛同できないし参加もしていない。 

ただ、お世話になっている先生や、同僚の中には参加を決めた人もいるし、彼らには彼らの主張もあるのはたしか。参加を迷っている人も多い。

 

しかし、やはり、4週間の全面ストライキは、学生に与える影響が大きすぎる。

 

f:id:climbershigh:20180223232244j:plain

Lecturers on strike at Queen's and Ulster universities - BBC News

 

今後の行方は

いまだに、大学側と組合側との溝は埋まっていない。

このままだと、4週間にとどまらず、4月、5月もストライキは続いて、

学生の試験期間と重なる可能性も指摘されている。

 

www.thetimes.co.uk

 

そうなるとイギリスの大学教育が根底から壊れてしまいかねない。

非常に深刻な状況ともいえよう。